前回の記事では、物理学でどのようなことを学んでいくのかについて解説しました。今回の記事では、物理学の具体的な内容に入っていきます。その中でも、物理学の基本中の基本である「力」について解説していきたいと思います。物理学は、 「実験と観察」によって、「見えない力」を見えるようにモデル化する学問であるともいえます。そして、見えない力こそわたしたちの身の回りの現象を生じさせている原因でもあります。では早速、見えない力を見えるようにする力学の魅力について解説していきたいと思います。物理学は、見えない力を見るまず、ニュートンのお話からしたいと思います。物理学の始祖の一人とも言われるニュートンですが、彼はどうして物理学の基礎を築いたと言われるのでしょうか。それは、物体にかかっている引力(重力)をはじめて定式化したからです。ニュートンは、「りんごが木から落ちることで重力を見つけた」という逸話で知られていますが、重要なことはりんごが木から落ちることも、地球が太陽の周りを回っていることもすべて同じ「万有引力の法則」によって説明できるということなのです。りんごが木から落ちることも、地球が太陽の周りを回っていることも、すべて「目にはみることのできない力」が働いていることによって生じている出来事なのです。「万有引力の法則」とは、宇宙空間におけるすべての物体は互いに引き合っているという法則のことです。りんごが木から落ちるのは、巨大な質量をもつ地球の中心に小さな質量のりんごが引きつけられているからです。同様に、巨大な質量をもつ地球と超巨大な質量をもつ太陽は互いに引き合っているため、地球は太陽の周りを運動してます。この万有引力の法則はシンプルな数式で表現することができます。それが、F=G•Mm/r^2という式です。Fは万有引力、Gは万有引力定数、Mは物体1の質量、mは物体2の質量、rは物体1と物体2の距離です。このシンプルな式によって、宇宙におけるあらゆる物体同士の間に発生している万有引力の大きさがわかってしまうのです。すごくないですか。月で体重計に乗ると地球で計測するよりも測定値は低くなる(痩せたように見える)のですが、その理由は月が地球より質量が小さいからです。つまり、月と人間の間に発生する万有引力が小さくなるからなのです。ニュートンが発見した万有引力の法則ですが、もともとはケプラーという人物が天体観測を通じて「ケプラーの法則」というものを発見していました。ケプラーは天体望遠鏡を用いて、天体の動きを観察し、記録することによって地球が太陽の周りを楕円運動していること、地球の運行は一定期間で一定の面積を描くこと、惑星の公転周期の二乗と太陽の平均距離の三乗は比例することを発見していました。ニュートンの万有引力についての数式は、「ケプラーの法則」を的確に表現することができました。こう考えると、物理学の歴史は天体観測から始まったということができるかもしれませんね。天体観測は、安全な航海をするため、あるいは正確な暦を作成するために古代文明から必要な営みでした。高校物理では、そのようなことはあまり習うことはありませんが、物理学の歴史を知ると、物理学の面白さに気づくこともできるかもしれませんね。話は少しそれましたが、物理学は実験や観察を通じて発見した法則を説明するための理論や数式をつくることによって大きく発展していったのです。これまで述べてきたように、「見えない力」を見えるようにするのが物理学の本質なのです。力とは何か?物理学は、「見えない力」を知る学問だということは理解していただけたと思いますが、そもそも力とは何なのでしょうか。実はわたしたちの身の回りは、力で溢れています。朝にカーテンから差し込む太陽の光、目覚まし時計の音、起き上がるための運動、コーヒーをいれるために沸かすお湯。これらにはすべて力がかかっています。ものを投げる時、食材を切る時、文字を書く時も、力が加わることによって物体の動きや性質が変化しています。このように考えると、わたしたちの生活は「見えない力」によって支えられていると言ってもいいかもしれません。実はこのような力すべてが、物理学の対象になります。力について具体的なイメージを持っていただけたのではないでしょうか。そのことを前提に、少し抽象化して考えていきたいと思います。物理学における力は、大きく二つあります。一つ目は「物体を変形させる力」で、二つ目は「物体の運動状態を変化させる力」です。「物体を変形させる力」としては、ゴムやバネを伸ばす力・りんごを潰す力・瓦を破る力などをイメージしていただければと思います。「物体の運動状態を変化させる力」としては、ボールを投げる力・水を沸騰させる力などを想像していただければわかりやすいのではないでしょうか。このような力によって生じる現象は高度な測定器具などを用いなくても実際に観察することができるので、扱いやすい対象とも言えます。いずれにせよ、(高校)物理学で扱う力は大まかにこの二つに分類することができることがわかると、全体の見通しが開けてくるのではないかと思います。見えない力をどう表現し、分析するか物理学は、「見えない力を見る」学問であり、具体的には「物体を変形させる力」と「物体の運動状態を変化させる力」を扱うということはわかっていただけたのではないでしょうか。では、その「見えない力」を可視化するために、物理学はどのようなツールを用いるのでしょうか。物体が変形する時も、運動状態が変わる時も、物体の変化はわかるものの、そこに加わっている力は相変わらずわからないままですよね。より具体的には、物体が変化するときに、加わっている力をどのように表現すれば見えない力を見ることができるようになるのか、と言い換えてもいいかもしれません。力はベクトル見えない力を表現するためのツールがベクトルという考え方です。ベクトルとは、大きさと向きを表すことができる単位です。ベクトルというと、数学で習うんじゃないのと思われる方も多いかと思いますが、ベクトルは物理学では基本中の基本の表現形です。ベクトルがわからなければ、物理はわからないと言っても過言ではありません。ベクトルがいまいちわからないという方もいるでしょうから、簡単に解説します。ベクトルとは、どの方向にどれだけの力の大きさがかかっているかを表現するものです。具体的に考えてみましょう。ボールを投げる時のことを考えてみてください。ボールを投げるという運動には、必ず向きがあります。ボールを受け取る相手の位置が変われば、ボールを投げる方向も変わります。また、相手から離れれば離れるほど、ボールに伝える力も大きくしなければなりません。このように力というものは、ある一定の方向にある一定以上の大きさが必ずかかるのです。そのため、力を表現するためにベクトルを用いるのです。力をどうやって、分析する?「目に見えない力」はベクトルで表現することによって、可視化することができることがわかりました。そして、ベクトルで表現されることによって、力を細かく分析することができるようになります。ベクトルの性質として、分解したり、合成したりすることができます。つまり、力も分解したり、合成したりすることができると考えることができるのです。力を分解したり、合成したりすることによって、力がつりあうためにはどうすればいいか、ある一定の方向に力をかけたい場合はどうすればいいかなどについて考えることができるようになるのです。つまり、見えない力を分析することができるようになるのです。ベクトルの分解や合成については、別記事で解説していく予定です。今回は、ベクトルは分解したり、合成したりすることができるということだけ理解してください。そして、あらゆる力はベクトルによって表現することができ、そのことが物理学の根幹であるということも理解してください。力にはどのような種類がある?最後に、高校物理で扱う力の種類について紹介したいと思います。高校物理で学ぶ力の種類はたった6つだけです。それが、「重力」「垂直抗力」「弾性力」「張力」「摩擦力」「浮力」の6つです。重力とは、万有引力と同じ意味ですが、地球上のすべての物体にかかる地球の中心へと引き寄せられる力のことです。垂直抗力とは、物体が面の上に接触して力を及ぼすとき、その力に対する反作用として面に垂直な方向にはたらく力のことです。弾性力とは、バネなどの弾性体が外部からの力を受けた時に元に戻ろうとする力のことです。張力とは、糸などの長さを伸ばす時にかかる力のことです。簡単に言えば、引っ張る力のことです。摩擦力とは、運動している物体に対して逆からかかる力のことです。この世の物体の運動がある特定の方向に特定の大きさで永遠に続かないのは、摩擦力が働いていることによります。浮力とは、水などの液体の中で重力とは逆向きにかかる力のことです。それぞれの力について、今後の記事で具体的に解説していきますので、高校物理では以上のような6つの力を学ぶのだなと思っていただければ大丈夫です。そして、この6つの力がわかれば、物体の運動はほとんど理解することができるといっても過言ではありません。まとめ今回の記事では、物理学の最も基本的な分野である力学と力について解説していきました。力学とは「見えない力」を可視化し、分析する学問です。力は大きく「物体を変形させる力」と「物体の運動状態を変化させる力」の二つの力に分けることができ、力はベクトル(大きさと向き)によって表現することができました。物体を変形させる力はさらに「弾性力」や「張力」に分類することができ、「物体の運動状態を変化させる力」は「重力」「垂直抗力」「摩擦力」「浮力」に分類することができます。高校物理の範囲では、この6つの力について理解することが求められています。いかがでしたでしょうか。物理学という学問の魅力について、少しでも気づいていただければ幸いです。参考山本明利・左巻健男『新しい高校物理の教科書』講談社