高校で学ぶ理科で最もマイナーな科目が地学です。そもそも、地学を教えられる教員も少ないため、学校によっては地学を履修できないということもあるでしょう。そのため、受験で地学を選択する人もダントツで少なく、地学の参考書は他の教科に比べて圧倒的に少ないです。地学とは、地球科学とも言われ、地球に関する学問です。宇宙の歴史や地球の歴史について学べるなど、人間のスケールには囚われない大きな視点を獲得することもできます。さらに、自然災害の多い日本に住む私たちにとって、地震や台風がどのようなメカニズムで発生するかについても学ぶことができることは、実践的な意味も持つと思います。今回は、高校1マイナーな教科と言っても過言ではない地学の魅力を紹介していきたいと思います。地学で何を勉強して欲しいの?地学の魅力を語っていく前に、そもそも高校地学ではどのようなことを学ぶことが期待されているのでしょうか。情報技術が発展し、あらゆるものが結びつくようになった現代社会は、Society5.0と呼ばれることもあります。そのような社会において、必要な教育としてSTEAM教育が挙げられることがあります。STEAMは、科学-Science・技術-Technology・工学-Engineering・芸術-Art・数学-Mathematicsの頭文字を取った造語です。すなわち、理科系の教育が重要だということです。新たに改定された指導要領においても、このような時代状況が念頭に置かれ、理数教育をより充実したものにしようとする意図が見えます。とくに、実験や仮説の検証など、より実際の理系教育に踏み込んだ教育をするようにという文言もみられます。では、地学は新たな指導要領においてどのような位置付けとなっているのでしょうか。 地球や地球を取り巻く環境に関わり、理科の見方・考え方を働かせ、見通しをもって観察、実験を行うことなどを通して、地球や地球を取り巻く環境を科学的に探究するために必要な資質・能力を次のとおり育成することを目指す。指導要領においては、地学(基礎)はこのように位置付けられています。すなわち、地学では地球環境について、科学的な見地から理解し、探究することが求められているのです。具体的な科目編成としては、「地学」と「地学基礎」に分かれていますが、その違いは学習範囲の広さにあります。「地学基礎」においては、「地球のすがた」と「変動する地球」という分野について学んでいます。「地学」においては、「地球の概観」「地球の活動と歴史」「地球の大気と海洋」「宇宙の構造」という分野について学んでいきます。地球と宇宙の仕組みと運動について学ぶよりわかりやすくまとめてしまうと地学(地球科学)という科目では、地球の仕組みと運動、そして宇宙の構造について学ぶということができます。「なぜ地震は起きるの?」「大陸や島はどうやって形成されたの?」「台風はどうしておこるの?」「なぜ日本には火山が多いの?」「宇宙ってなに?」このような疑問は誰しもが一度は抱いたことがあると思います。地学は、上記のような問いについて考えていく教科-学問です。では、具体的にはどのようなことを学んでいくのでしょうか。地球の概観この分野では、「地球の仕組み」について学んでいくことになります。地球は、非常に大きな物質です。内部構造は、核-マントル-地表で構成されており、私たちは地球という非常に大きな物質のほんのわずかな表面で暮らしています。その内部は、非常に高温となっているのですが、地球内部がそのような状態であるため、火山活動や地表の移動などが生じています。また、地球には磁気や重力が存在しており、それらの存在によって生物が生存することができるようになっています。この分野では、このような地球がどのような構造で成立しているかについて学んでいきます。私たちが当たり前のように暮らしている地球が、実際にはどのような存在であるかについて理解することができます。そして、地球もまた活発に活動する生きた有機体=生命であるということを感じることができるでしょう。地球の活動と歴史この分野では、「地球の運動」や「地球の歴史」について学んでいきます。地球は、日々運動し続けています。例えば、ハワイ島は、少しずつ日本列島に近づいています。世界一高いヒマラヤ山脈もかつては海でした。現在のインドとユーラシア大陸が衝突した際の巨大なエネルギーによって、隆起したのがヒマラヤ山脈なのです。このような地表の運動は、プレートテクトニクスという概念で説明することができます。地表はいくつかのプレート-板によって構成されており、そのプレートの下にある高温のため比較的ドロドロした流動体が動くことによって、プレートも移動します。このように、私たちが暮らす地球は日々活動し続けており、その活動が地震や噴火などの現象を引き起こすのです。このように日々活動する地球が誕生したといわれるが、約46億年前です。46億年前には灼熱で二酸化炭素で充満していた地球環境は、徐々に冷却され、植物が生まれ、酸素が生まれ、生命が存在することができるまでいたりました。人類の歴史のスケールを遥かに超える地球の歴史では、地球誕生から、生命の誕生、そして生命の進化について学習していくことになります。このように、この分野では日々姿を変える地球とその歴史について学習していきます。非常にエキサイティングでスリリングなのが、この分野だということもできるでしょう。地球の大気と海洋地球環境は、大地の他に「風」と「水」によって構成されています。この分野では、「風」や「水」のメカニズムや循環について学んでいきます。私たちが住む大地と宇宙の間には、空が存在しています。この空は実は、いくつもの層に分かれているのです。大気圏や成層圏という言葉はニュースなどで聞いたことがあるかもしれません。このようにいくつかの層があるからこそ、太陽の放つ高密度のエネルギーが緩和されたり、飛行機が安定的に飛ぶことができたりします。そして、空(大気)もまた地表と同じく活発に運動しています。晴れの日があったり、雨の日があったり。あるいは、梅雨のように長期間にわたって雨が降り続いたり、台風が発生したり。これらはすべて、大気の運動によって発生する現象です。そして、この大気の運動と「水」は密接に関わっています。というのも、地表に降り注ぐ雨は、海をはじめとする地表の水が蒸発して、それが再び地表に戻ってきているのです。このように、地球上の水も循環的に運動しているのです。地球上の水の運動で最も活発なのが、海洋です。東北大震災で流されてしまった漂流物が、ブラジルの沖合に漂着することもあったように、海は大規模に運動しているのです。私たちが日々口にする魚の中にも、そのような海流にのって、広範囲に移動する種も存在しています。この分野では、このような大気と海洋の仕組みや運動について学んでいきます。宇宙の構造地学で最後に学習する分野が「宇宙」です。巨大な物質である地球も、宇宙というスケールでみたら、とても小さく、そして歴史も浅い存在です。私たちの地球を取り巻く天文学的なスケールの環境である宇宙は、まだまだわからないことに溢れています。しかし、宇宙が約137億年前に誕生し、膨張を続けているということはわかっています。そして、宇宙には無数の天体が存在していることや、複数の銀河が存在していることもわかっています。地球は、その銀河にある太陽系の一部なのです。このように眩暈がするほどスケールの大きな宇宙がどのような構造であるのか、宇宙にはどのような種類の天体が存在しているのか、天体ごとにはどのような特徴があるのかなどについて、学習していきます。夜空を見上げれば輝く星の光も、数億年・数十億年前に爆発した際の光の名残ですし、地球に生命をもたらした太陽もいずれは大爆発を起こしています。それでもなお、宇宙は膨張を続け、ある時点で宇宙も急速に収縮するのではないかということも言われています。地球がまたそうであったように、宇宙もまた運動をする存在なのです。人類にとっては、永遠に理解し尽くすことのできない宇宙のありさまについて学んでいくということに、誰しもが多少の高揚感を覚えるかもしれませんね。どのように勉強すればいいの?このように魅力に溢れた地学という分野ですが、冒頭にも申し上げた通り、めちゃくちゃマイナーな教科です。そのため、学習参考書や問題集なども市場にはほとんど出回っていません。そもそも地学を履修している生徒も少ないと思います。ここでは、地学をどのように勉強していけばいいかについてアドバイスしていきたいと思います。これまでみてきたように、地球も宇宙も運動する存在です。そのため、教科書だけでその運動のイメージを想像するのはなかなか難しいと思います。そこでお勧めしたいのが、動画を活用するということです。Youtubeをはじめとした動画プラットフォームには、ナショナルジオグラフィックなどをはじめとして、地球や宇宙の歴史や運動について説明した優れた動画がたくさん上がっています。なんとなく教科書に書いてあることはわかるのだけど、いまひとつピンとこないという方は多いでしょうから、ぜひ動画を検索してもらいたいと思います。ちなみに、この動画などはおすすめです。動画を積極的に活用しつつ、地学の学習を進めていくと、最も面白い教科の一つなのではないかと思います。また、日頃から住んでいる地域の地層について考えてみたり、露出している地表を観察したり、何気なく掴んだ石がどのような環境で作られたのかを考えてみたりしてもいいでしょう。その意味では、最も身近な教科の一つとも言えるでしょうね。なーんだ受験テクニックじゃないのかと思われた方もいると思いますが、まずは知的好奇心を持って、実際にいろいろ考えることが学習においては最も重要なことだと考えています。地学を通じて身につく能力とは?地学を通じて身につく能力は、「地球活動について想像力」と「大きなスケールで物事を考える構想力」なのではないかと思います。日本は、地球においても地震や火山活動の活発なエリアです。どのようなメカニズムで地震や津波、火山活動が発生するのかを理解することは、私たちの生活に対する想像力を豊かにするのではないでしょうか。また、人類の歴史とは異なるスケールで物事を捉えることもできるようになります。近年では、「人新世」という地層区分が、提唱されているように、SDGsなどが叫ばれる中で、地球規模での歴史を考えることの重要性は高まっています。大きな視点から、私たちの社会の未来について構想する力も地学を学ぶことによって身につくのではないでしょうか。マイナー教科、地学の底力はまだまだあるはずです。今後は具体的な内容について、ご紹介していければと思っておりますので、楽しみにしていてください。