現在、発達障害についての理解が急速に進みつつある中、発達障害とうつ傾向を併発した・もしくは判別の難しい不登校児童の増加傾向が見られています。参考:https://www.jstage.jst.go.jp/article/ojjscn/49/4/49_255/_pdf/-char/ja最近では保護者の理解が深まったことも相まって、意思を持って自ら不登校を選択してきた学生も少なくありません。例えば、学校の勉強は退屈だから不登校だけれども、自宅でそれを超える進度と深さを持って勉強に励んでいるような生徒です。 しかし多くの場合は、「うつ」とみなされるような精神的・身体的症状を訴える生徒が多いと言えるでしょう。特に、思春期で不登校となる生徒の多くは、頭痛や腹痛、発熱などの身体的な不調を訴えることも多く、それが精神的なストレスに基づいていると発覚するまでに少し時間を要することもあります。また、精神的なストレスに起因するとわかっても、それが一時的なものなのか、環境によるものなのか、発達特性に由来するものなのかなど、検討すべき項目は依然として多く、本人とその家族は、中長期的な目線で症状と向き合い、対処していくことが求められます。もちろん対処法はさまざまにあるわけですが、今回は「栄養」という観点から不登校やうつ症状の問題を考えていきたいと思います。本記事では、精神科医として35年にわたってひきこもりや不登校などに向き合ってきた廣瀬久益氏の著書である、『完全復職率9割の医師が教えるうつが治る食べ方、考え方、すごし方』をベースに、うつ傾向と栄養学的な対応、復学までのステップについてご紹介していきます。うつの原因は隠れ鉄欠乏かもしれない現代において菜食の重要性が一般化された結果、日常的に摂取される鉄分が慢性的に不足しているということが明らかになっています。鉄欠乏は身体・精神にさまざまな影響を及ぼし、症状は多岐に渡りますが、そのうちの一つに、うつ症状・パニック障害の症状を呈するものがあります。参考:https://cir.nii.ac.jp/crid/1130000798359242624?lang=ja以下の項目のうち、いくつかが当てはまれば、もしかしたら「隠れ鉄欠乏」かもしれません。肌荒れ・口内炎など、皮膚・粘膜のトラブルが多い寝つきが悪い、夜中や朝方に目覚めて眠れない皮膚によくアザができる立ちくらみ・めまいがよく起こる筋力が低下し、階段の上り下り、荷物の持ち運びがつらい夕方〜夜に疲れが出て動けなくなることがあるなお、血液検査では明確な貧血と診断されなくても、隠れ鉄欠乏の症状が出ることがあります。なぜなら、血液検査の基準値は日本人の平均値であって、理想の数値ではないからです。日本人は昔から菜食の傾向が強いので、鉄分の数値が他国に比べて平均的に低いのです。鉄不足を補うためにはサプリメントの服用が重要欠乏状態の人が、それを十分に補えるだけの鉄分を食事で摂取しようとすると、マグロにして2kgを毎日摂る必要があるとされています。これは難しいので、サプリメントで補うのが現実的な対応となります。ただし鉄系のサプリメントは摂取し始めてしばらくは副作用が出ることが多いため、副作用や摂取のタイミングなどに気をつけながら摂取していきましょう。例えば、軽い吐き気や、便秘や下痢など、胃腸に関わる副作用が出ることが多いです。亜鉛とビタミンB6の重要性また、隠れ鉄欠乏以外にも栄養学的に見過ごせないのが、亜鉛とビタミンB6の欠乏です。これらも鉄欠乏同様にうつに似た症状を呈することがあります。なぜ自分はこんなに神経質なのか?性格だから仕方ないのか?と悩む人の中には、実は亜鉛とビタミンB6の欠乏が原因となっている人も少なくないとされています。ビタミンB6欠乏によって引き起こされる症状には、以下のようなものがあります。口内炎や口角炎、目鼻耳の皮膚炎がよくできる手足の痺れ、痙攣が起こる眠気が生じやすい、不眠症になる食欲がない、倦怠感が続くまた、亜鉛欠乏ビタミンB6欠乏によって引き起こされる症状には、以下のようなものがあります。風邪をひきやすい、傷が治りにくい肌が乾燥しやすく、荒れやすい食欲がない、味覚が落ちた抜け毛が増えた欠乏症の場合極端にその栄養素が極端に不足している状態であるため、やはり食事だけでは補いきれません。サプリメントでの補充が望ましいでしょう。うつ症状からの回復のステップこれまでに述べてきたように、とある栄養素が不足することで、いわば心身の体力がない状態に陥ることがあります。これは決して怠惰ではないということを前提とした上で、ご家族の理解やサポートが必要です。では、栄養面でのサポートは理解できたところで、実際にうつ状態からどのように回復し、復学していくこととなるのでしょうか。ここでは、うつ症状からの回復のステップや、基準となる「心的エネルギー」の試算について紹介します。回復の6ステップ自室モード:誰にもじゃまされずに休息家モード:外出せず家族と交流外で一人モード:外出し、一人で活動外で対人交流モード:外出し、友人と交流仕事(通学)モード:職場(学校)に近づく、顔を出す復職(復学)モード:出社(登校)し、少しずつ仕事(勉強)ステップ1:自室モード家族からすれば心配で仕方ないというのは察するに余りありますが、実はうつが一番ひどい状態の時は、家族が寝静まり自室に一人でいる時間が、一番気兼ねなくリラックスして過ごせる時間帯です。この時に無理に生活リズムを整える必要はありません。早い人で1週間、長い人で2〜3ヶ月経てば、うつ症状が少し軽くなり元気が出てきます。食欲が出て、睡眠時間も6〜8時間程度に収まるようになってきます。午後には好きなことができ、家族とも話ができるようになってきます。家族としては、気にかけながらも、気長に待つのが大切です。ステップ2:家モード・ステップ3:外で一人モード家族とも話ができるような状態へ移行した後は、ステップ2の家モードとして、生活リズムを整え始めます。もし夜型へ傾いているようであれば、サポートしながら少しずつ起床時間を早めていきましょう。この際、時差ぼけのような状態ですので、どうしても眠気が強いですが、起きてから4時間は二度寝しないよう、なんらかの趣味に没頭させてあげるのが良いです。そこから少しずつ散歩に出たり、カフェで読書をしたり、軽い活動ができると、ステップ3の外で一人モードへと移行できます。ステップ4:外で対人交流モードステップ4で注意したいのは、友人との交流は、特に気兼ねなく話せるような相手を選べることです。気の合わない相手と接すると気疲れしてしまい、ステップ3へ逆戻りしてしまうこともあります。初めのうちは会う時間を短めに設定するなど、家族からのアドバイスをしても良いでしょう。ステップ5:仕事(通学)モード生活リズムが落ち着いてきたら、いよいよステップ5と6に取り組むタイミングです。学校や職場に復帰するために少しずつステップを踏んであげる必要があります。そのために、元気だった時の心的エネルギーと、今の心的エネルギーを計算してみます。それらの比率を計算してみると、回復度や、無理のない範囲がわかります。なお、しばらくの間は、「今の心的エネルギー」の半分くらいは悩むエネルギーになってしまうと捉えるのが良いです。その上で、残ったエネルギーでできる範囲を考えていきましょう。例①:プライベートタイムの心的エネルギー100点:休日の丸一日を家事・子育て・親戚付き合い・外食・買い物・勉強・趣味をして時間を過ごす40点:仕事・学校のある日に、プライベートな時間を家事子育て親戚付き合い外食買い物勉強趣味をして過ごす0点:ほとんど横になるか、ソファに座って過ごす例②:ワーキングタイムの心的エネルギー60点:8時間勤務(通学)が普通にできる45点:6時間勤務(通学)が普通にできる30点:4時間勤務(通学)が普通にできる15点:2時間勤務(通学)が普通にできるステップ6:復職(復学)モードこのモードに到達して、およそ3ヶ月は大丈夫そうに見えても、しばらくは慣らし運転をする必要があります。最初に無理をしてしまう人も少なくありませんが、そうなると手前のステップへ逆戻りを繰り返してしまいます。慣らし運転のステップ最初の2週間:5割の拘束時間次の2週間:8割の拘束時間次の2ヶ月:10割の拘束時間(居残りしない):ここまでで3ヶ月の慣らし運転その後:普通の拘束時間(できれば居残りしない)栄養的なサポートを踏まえ、前述の「慣らし運転」に対応してくれる学校を選択できれば、不登校だった生徒も少しずつ回復して、学校に通えるようになっていくでしょう。決して悲観的にならず、本人や家族の無理のない範囲で、着実にリハビリを継続しましょう。