2022年から施行されている新指導要領。新たに設置された「公共」という科目では、社会・政治・経済など多様な視点から、現代社会の問題について考えていくことによって、自律的な市民としての素養を磨いていくことが求められています。

そして、「政治・経済」という科目は、必修科目である「公共」を学んだ上で、現代の政治や経済についての詳細な知識を学んでいく発展的な科目として新たに位置付けられることになりました。社会課題や国際的な諸問題、時事問題に関心がある生徒にとっては、「政治・経済」は魅力的な科目なのではないでしょうか。受験では、共通テストでしか活用されないことがほとんどですし、特に力を入れて勉強する科目でもないかも知れません。しかし、複雑な現代社会を生きていく上では、必須の教養である政治や経済について知識について、この記事では解説していきたいと思います。

政治・経済で何を勉強して欲しいの?

私たちの社会は変化が激しく、不確実で不安定になりつつあります。このような時代はVUCAの時代などと呼ばれています。 VUCAとは、Volatility(変動性)・Uncertainty(不確実性)・Complexity(複雑性)・Ambiguity(曖昧性)の四つの英単語の頭文字をとった造語です。このような時代背景を踏まえて設置されたのが「公共」という新科目です。そして、「政治・経済」という科目では、より専門的な知識を学ぶことが期待されています。その意図はどのようなものか、指導要領解説より引用してみましょう。

社会で判断を迫られるであろう、正解が一つに定まらない現実社会に見られる複雑な課題を把握し、課題を追究したり解決に向けて構想したりする学習に取り組む。このような学習を通して、自立し、主体的に生きる国民主権を担う公民として他者と協働して、現実社会の諸課題の解決策を構想し、それを表現して他者に伝え意見を取りまとめて合意を形成していくことができる資質・能力を育成するものである。

複雑化した現代では、正解は一つに定まりません。さまざまな視点から課題を把握し、異質な他者と協働しながら、課題解決を行う「問題解決力」が求められています。この問題解決力を養うのが「政治・経済」の教科目標とされています。

具体的に学ぶこととは?

では、「政治・経済」という科目では、具体的にどのようなことを学んでいくのでしょうか。大きく「現代の日本における政治・経済の諸問題」と「グローバル化する国際社会の諸問題」を学んでいきます。つまり、日本の問題と国際社会の問題について学んでいくということですね。

「現代日本における政治・経済の諸問題」について、政治の分野では「政治や法の意義や機能」「基本的人権の保障」「法の支配」「権利と義務の関係」「議会制民主主義」「地方自治」について学んでいきます。経済の分野では、「市場」「経済の循環」「経済成長」「物価」「景気変動」「財政の仕組みや租税の意義」「金融の仕組み」などについて学んでいきます。このような基本的知識を学んだ上で、「少子高齢化」「地域社会の自立」「多様性を尊重する社会」「産業構造の変化」「財政健全化」「持続可能な農業構造の実現」「防災を意識した社会」などの現代的な問題について考えていきます。

「グローバル化する国際社会の諸問題」では、「国際社会の変遷」「国際法の意義」「国際機構の役割」「安全保障」「国際貿易」「国際為替」「国際協調」などについて学んでいきます。その上で、持続可能な社会を国際的に形成していくためにはどうすればいいのかという現代的な問題について考えていきます。

このように、現代社会の基本的な仕組みとなっている「政府」「議会」「法律」「市場」「国際関係」について深く学び、今後のあるべき日本社会や国際社会の姿について探求してくのが、「政治・経済」という分野で主に学習していくことだといえます。

なぜ「政治・経済」なの?

では、そもそもどうして「政治」と「経済」ではなく、「政治・経済」という構成になっているのでしょうか。その背景には、経済学がもともと”political economy”-政治経済学と呼ばれていたことに由来していると考えることができます。

「近代経済学の父」ともいわれるアダム・スミスの主著は、『国富論』です。その題名からもわかるように、国家(政治的共同体)の富について分析したのが、スミスの功績です。このように、経済学の当初の関心は国家による政策の問題が、市民社会-経済にどのような影響を及ぼすのかを分析することにありました。そのため、「政治経済学」という呼称が用いられていたのです。

現代においても、政治的な意思決定や政治的な体制(民主主義国家なのかどうなのか)は、私たちの暮らし=経済にも重大な影響を与えますよね。つまり、政治の問題と経済の問題は切っても切れない関係にあるのです。

さらに、「そもそも論」を推し進めていきましょう。それが、「政治とはそもそも」「経済とはそもそも」ということです。それぞれさまざまな定義があるとは思いますが、「政治とは、共同体における利害調整を行い、共同体としての意思決定を行うこと」、「経済とは、わたしたちが生きるために行う活動のこと」と理解するとわかりやすいでしょう。このような観点から考えると、政治と経済が互いに密接に関わり合っていることを理解することができるのではないでしょうか。共同体としてどのような選択をするかどうかは、私たちの暮らしに直結する問題だからです。そして、国際的な問題とは、共同体ごとに多様な政治的決断をし、暮らしをしている集団が、どのように関係を築き上げていくかという問題になるのです。

現代社会はあまりにも大規模で、複雑であるため「政治」も「経済」も自分とは縁遠いものであるかのように感じてしまいます。しかし、このようにシンプルに考えると、政治も経済もグッと身近な存在に感じられるのではないでしょうか。クラスに存在するグループは政治的な派閥なようなものですし、日頃買っているコンビニのおにぎりは複雑な生産ネットワークの賜物でもあります。生きるということそれ自体が、政治的であり経済的な営みなのです。

どのように勉強すればいいの?

「自律的な市民として、あるいは国際社会に生きる地球市民として、持続可能な地球環境の発展を考える」と言われると何だかたいそうな感じがしますよね。しかし、先ほど申し上げたように「生きることそれ自体が、政治的であり経済的な営みである」という観点からすると、わたしたちの生活を見つめ直すこともまた「政治・経済」を考えることにもつながると思います。そのためには、日常を見渡して、疑問をもつことが大切なのではないでしょうか。

「コンビニのおにぎりが口に運ばれるまでには、どれほどの人が関わっているのか。」「部活動の部員がもっと組織としてまとまるためにはどうすればいいのか。」「自分の学校はどのような組織体制やルールで運営されているのか。」「学校の問題点は、どうすれば、解決できるのか。」「自分の住んでいる街から選出されている議員は誰なのか。」「どうすれば、自分の街はもっとよくなるのか。」「どうして、ただの紙切れで物が買えるのか。」「なぜ、商品は値上がりするのか。」「アルバイト代は、どのように決められているのか。」

こうした日常を暮らすことで感じる疑問の背景には、「政治・経済」という科目で学ぶ知識がつまっています。そして、疑問を持って身の回りの物事を見つめることによって、「政治・経済」で学ぶ事柄はより具体的で生々しく感じることができると思います。そうすれば、闇雲に暗記しなくても、深く理解をし、実際に応用できる知識を身につけることができるのではないでしょうか。

そして、ある程度基本的な「ものの見方」を身につけたら、時事問題などについて、学習した知識をもとに自分なりの意見を考えてみてください。新聞などを読むのもいいですが、『日経キーワード』『朝日キーワード』などの書籍には最新の時事問題が収録されています。また、文藝春秋が出版している『文藝春秋オピニオン』には、各界の著名人が時事問題についての意見を寄せています。雑誌や書籍は、まだまだネットニュースよりも重厚で情報量が多いです。このような出版物を読み、さらに時事問題についての思考力を養うのがいいでしょう。

さらに、現代では国際社会の情報にもアクセスしやすくなりました。CNNBBCなどの海外のニュースサイトは、日本語で読める記事も充実しています。国際化が進む現代においては、海外の報道機関がどのようなニュースを報道しているかを知ることも重要です。

政治・経済を通じて身につく能力とは?

「政治・経済」という教科を通じて身につく能力は、一番は「問題発見力」であると思います。現代社会の基本的な仕組みを理解すると、世の中は違って見えるようになるでしょう。なぜなら、私たちの社会がどのような原理で成立していて、日々の暮らしがどのようなネットワークで支えられているかわかるようになるからです。このような仕組みがわかれば、現代社会で問題とされていることの表層ではなく、深いところから考えることができるようになります。そして、本質的な問題がどこにあるのか、ある問題の背景にはどのような複雑な要因が絡み合っているのかについて理解することができるようになります。このような「問題発見力」が、「政治・経済」を学ぶことによって身につくのではないでしょうか。

「問題解決力」は、「問題発見力」があってこそ十分に威力を発揮します。問題解決の大部分は、問題発見にあるといわれたりもします。問題が正しく設定されなければ、解決策も的を得ないものとなるからです。だからこそ、「問題発見力」を「政治・経済」という教科を通して、身につけていって欲しいと思います。


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