倫理という科目は、受験ではほとんど使わない科目で、せいぜい共通テストでのみ課されますが、一部の高校生からは根強い人気がある科目だと思います。というのも、倫理では「人間について」、哲学・心理学・宗教・倫理学など様々な視点から勉強する科目だからです。倫理のコアな人気の理由は、「自分について」「他人との関係性について」少しでも悩んだことがある人にとって、倫理で学ぶことはとても身近でためになるからだと思います。

倫理で何を勉強して欲しいの?

文部科学省は2022年より高等学校の指導要領を新しくすることを決定しています(いわゆる新指導要領)。特に、国語のあり方は大きく変化します。私たちの社会は変化が激しく、不確実で不安定になりつつあります。このような時代はVUCAの時代などと呼ばれています。 VUCAとは、Volatility(変動性)・Uncertainty(不確実性)・Complexity(複雑性)・Ambiguity(曖昧性)の四つの英単語の頭文字をとった造語です。

このような時代において、「人間としてのあり方生き方についての見方・考え方を働かせる」「現代の諸課題を追求したり解決に向けて構想する」「人間尊重の精神と生命に対する畏敬の念を育む」ことが倫理で学ぶことの主眼となっています。そして、そのことによって「グローバル化する国際社会に主体的に生きる平和で民主的な国家及び社会の有為な形成社に必要な公民としての資質・能力」を育成することが目指されています。

かなり抽象的ですが、グローバル化が進み、価値観も多様化し、日々環境が変化していく現代においては、改めて「人間と何か」を根本的に理解することが必要だということではないでしょうか。つまり、変化が激しいからこそ、「変わらないもの」を見つめていくことが大切だということです。

人間について学ぶ

高校倫理は、大学では「哲学」「宗教学」「心理学」「倫理学」などいわゆる人文学-humanitiesという分野で学ぶことを学んでいきます。人文学とは、読んで字のごとく「人間についての学問」です。

では、そもそも「人間」とはどのような存在なのでしょうか。「人間」についての考察は、ルネサンス期から行われるようになり、近代以降で隆盛したと一般的には言われています。特に、近代以降はさまざまな学問が「人間とは何か?」という問いに挑んできたと言えるでしょう。自然科学は、「生物としての人間」「脳や身体の仕組み」などの観点から人間という存在に迫ります。社会科学は、「集団としての人間」「社会的存在としての人間」などという観点から人間という存在にアプローチします。それに対して、人文学は「精神的存在としての人間」「人間の認知の仕組み」などという観点から人間存在について考察を与えます。

高校倫理では、主に人文学の観点から、人間とはどのような存在について学んでいきます。まず、「哲学」という観点では基本的な人間観を学んでいくことになります。哲学は、科学の土台となる学問です。そのため、「〜とは何か」について検討することが哲学の主な課題となります。具体的には、人間とは「ホモサピエンス」「ホモファーベル」「ホモルーデンス」であるという議論が哲学の領域でなされてきました。「ホモサピエンス」は、知性を人間の主な特徴とする考え方です。「ホモファーベル」とは、ものをつくることを人間の主な特徴とする考え方です。そして、「ホモルーデンス」とは、遊びを通じて文化を形成することを人間の主な特徴とする考え方です。高校倫理では、まずこのような哲学の分野で議論されてきた人間観を学んでいきます。また、古代ギリシアの哲学や日本や中国などの東アジアの思想、近代以降の哲学についても広く学んでいきます。

「宗教学」という観点からは、キリスト教・イスラーム教・仏教などの世界の三大宗教を中心に、その基本的な宗教観について学んでいきます。現代社会を生きる私たち(特に日本人)にとって、宗教は少しとっつきづらいイメージがあると思います。あるいは、胡散臭いという印象を持っている方も多いかもしれません。しかし、世界を見渡せば依然として熱心に宗教を信仰している人は多数存在していますし、実際に宗教的な世界観が生活や仕事などに影響を与えていることもあります。グローバル化が進んでいる現在では、宗教について理解していることは必須の教養とも言えるでしょう。なぜなら、宗教観を理解していないがために、相手の文化を知らないうちに貶めてしまっていることなどもあるからです。

「心理学」という観点からは、主に青年期の課題について学んでいきます。青年期は、「自分とは何か」という自我の問題で悩むことが多くなると一般的にいわれています。そのため、思春期とも呼ばれることもありますが、「自分と他人の違い」「友人や恋人との関係」「家族との関係」「将来への希望と不安」「生きる意味」など青年期には多くの思想的困難に直面します。親の経済的・精神的庇護から次第に自立していくこの時期に、自らの生き方を選択して、決定していくためにはどのようにすればいいのか。この誰もが一度は考えたことのある悩みについて、心理学という観点から学んでいきます。

「倫理学」という観点からは、主に現代社会が直面している倫理学的な課題について学んでいきます。現代社会の発展は、科学技術の発展なしにはあり得ません。しかし、科学技術の発展は多くの倫理的な問題をもたらしました。例えば、遺伝子操作技術は植物や動物あるいは人間までも科学的に生産することを可能にしました。その結果、生命倫理の問題は現代社会において大きな問題となっています。あるいは、人間の産業活動によってもたらされた地球温暖化をはじめとする気候変動も国際社会が協力して、解決していかなければならない問題です。こうした環境問題についても倫理的な観点から検討していきます。

このように、「人間」あるいは「人間の活動」について、多様な観点から検討していくのが高校倫理の魅力と言えるでしょう。ルークス高等学院では、「高校倫理」を「哲学」「倫理学」「美学」「心理学」「宗教学」に分けて、講座を用意しているので、次回からの記事はその分類に従って、各分野でどのようなことを学んでいくか紹介していきたいと思います。

どのように勉強すればいいの?

では、高校倫理は具体的にどのように勉強していけば良いのでしょうか。最も大事なのは、教科書や教科書で紹介されている考え方を自分で調べて、時には原典をあたることが必要でしょう。そして、考えたことを友人や先生と議論することが重要だと思います。倫理で学ぶ知識は、生きた知識であるべきです。つまり、自分のことや社会のことを考えることができるようになるのが倫理の醍醐味だからです。

たしかに、受験科目として倫理を選択している人も多いでしょうが、倫理で学ぶ事柄は大学以降において大きな役割を果たすでしょう。そのため、受験のためのクイズ的な知識として「暗記」するのではなく、倫理で学んだことをもとに身近な事柄について考える癖をつけてほしいと思います。

また、もしも余裕があるという方には、倫理の教科書で紹介している人物の本を図書館などで探してみて、パラパラとでも良いので読んでみてください。倫理の教科書はかなり情報量を圧縮しているので、多少わかりづらくなってしまっているところもあります。一番良いのは、原典にあたることです。おそらく、全く意味がわからないと思うでしょうが、少なくとも一節は自分の問題関心に刺さる文章に出会えると思います。全てを理解しようとするのではなく、わかるところを読んでメモをするというのが初学者にとってはいいでしょう。

そして、もしそのような文章に出会ったら、同じような関心をもっている友人に共有して、どう思うか対話をしてみてください。人文学の知見は、古代から対話によって育まれてきました。そのため、自分一人でカリカリ勉強するのではなく、共に学ぶという態度が求められるでしょう。

倫理を通じて身につく能力とは?

倫理を通じて身につく能力は複数ありますが、あえて一言で表現すると「根本から考える力」だと思います。「そもそも〇〇とはどういうことか?」「どのようなあり方が正義にかなうのか?」「どう生きることがいいことなのか?」などを根本的に考えるのが人文学の態度です。そして、往々にして議論が混乱したり、先行きが不透明になる時には、「そもそも」の認識がずれてしまっていることがあります。倫理を学ぶことで、「そもそも」という根本から考えるための道具を得ることができます。「そもそも人間とは何か」「そもそも生きるとは何か」、そのような根本的な視点から考えることで、私たちが生きる上での共通の基盤を整理することができます。こうした根本から考える力は、多様な価値観を持つ人々や動植物、そして地球環境と共生していくことが求められる現代社会において、最も重要な力なのではないでしょうか。

そして、根本から考えることによってはじめて、私たちが本当に望む未来の姿を構想できるのだと思います。高校倫理を学ぶことを大袈裟に捉えるすぎではないかという意見もあるかと思いますが、倫理で学ぶことにはそのような力があります。


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