2022年度から新しくなる社会科の中で、「現代社会」という科目が消え、新たに「公共」という科目が新設されることになりました。公共という科目では、政治・経済・社会・倫理など幅広い視点から私たちが形成する社会のあり方を考え、自律した市民として相応しい振る舞いを身につけるための知識を獲得するのが公共という科目の役割だといいます。分野横断的に社会のあり方について考えるのが公共の特徴です。改訂された新指導要領の中でもとくに文部科学省が力を入れた形跡が見られるのもこの公共という科目です。では、この公共という科目ではどのようなことを学んでいくのでしょうか。

公共で何を勉強して欲しいの?

文部科学省は2022年より高等学校の指導要領を新しくすることを決定しています(いわゆる新指導要領)。特に、国語のあり方は大きく変化します。私たちの社会は変化が激しく、不確実で不安定になりつつあります。このような時代はVUCAの時代などと呼ばれています。 VUCAとは、Volatility(変動性)・Uncertainty(不確実性)・Complexity(複雑性)・Ambiguity(曖昧性)の四つの英単語の頭文字をとった造語です。

このような価値や求められることが常に流動的になり、曖昧になる世の中において公共という教科は社会についての基本的なものの見方や考え方を提供する科目として位置づけられています。文部副大臣も務め、新指導要領の作成の際にも大きく尽力した鈴木寛氏は以下のように述べています。少し長いですが、引用します。

「VUCAの時代」という表現もされますが、VUCAとはVolatility(変動性・不安定さ)、Uncertainty(不確実性・不確定さ)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性・不明確さ)の頭文字を取った言葉です。これからの時代を生きる子どもたちは、まさにVUCAのなかで「板挟み」と「想定外」に常に直面していくことが予想されます。そうした時に、何と何がトレードオフになっているのかを正しく理解することが重要になってきます。つまりステークホルダーとしてどういう当事者がいるのかということをちゃんと理解しなくてはならない。これまでの生産者と消費者がいるだけの単純な市場モデルでは現代社会を捉えきれない。協力関係、敵対関係、競争関係など複雑で多用な関係性を理解し、その中でどう折り合いをつけていくのか、どうやって合意を形成していくのか、ということが問われます。たとえば新型コロナウイルスは、その影響により大変な苦境に陥っている人々がいる一方で、テレワークが一気に進み、これをサポートしている会社にとっては 追い風になっています。同じ「想定外」の事件が起こった時にも、関係者によってその受け止め方がまったく違う。このような多様で複雑な現代社会を把握していくのが「公共」という科目の役割だと考えています。>

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現代社会は複雑で巨大な一つのシステムです。鈴木氏も述べているように、この社会にはさまざまなステークホルダーがいます。コロナウイルスの感染拡大も、テレワークで従来よりも快適に仕事ができるようになった人もいれば、感染のリスクに晒されながらも現場に立たなければならないエッセンシャルワーカーの存在も明らかになりました。具体的には、ゴミの収集を行なっている人々なども実はエッセンシャルワーカーであると注目を集めました。ゴミの収集は普段はほとんど関心にのぼりませんが、有事の際には当たり前にできていたことができなくなったりします。そのような時に、この社会はさまざまな仕事によって蜘蛛の巣のように張り巡らされたネットワークなのだということに気づきます。公共という教科では、さまざまな現代的な問題や課題について多様な学問の観点から検討していくことによって、複雑で複合的で巨大な社会のあり方について考えていくことが求めらています。そして、先進国の中でも「政治参加意識」や「社会参画意識」の低い日本において公共は重要な役割を果たす教科として注目されています。

社会はいつから成立したの?

では、そもそも私たちが当たり前のものとして考えている(近代)社会はいつ成立したのでしょうか。「え?社会って人類が生まれた時に成立したんじゃないの?」というように、そもそも「社会の成立」という問いについて疑問を持つ人も多いかと思います。それくらい社会という存在は多くの人にとって当たり前のものではないでしょうか。しかし、少なくとも近代社会の成立は概ね18世紀くらいからというのが一般的な見解です。

フランス革命などの政治的な革命、産業革命などの経済的な革命、そして科学技術の高度な発展などが相まって近代社会が成立したと考えられています。こうした革命の結果、いままでにない複雑で巨大な共同体が生まれたのです。つまり、政治的な革命は民主主義をもたらしましたし、経済的な革命は資本主義をもたらしましたし、科学的な革命は宗教の力を大きく弱めました。その結果、政治家と官僚が構成する政府が生まれましたし、多種多様なビジネスが成立しましたし、科学の成果は日々の暮らしをどんどん豊かにしていきました。それに伴い、グローバル化も進展していきます。その結果、国と国、地域と地域の結びつきも密接になり、より複雑な共同体が生まれていくのです。18世紀以降、人類の人口も急激に増加していきます。そして、社会の規模はますます大きくなっていったのです。社会の誕生と急激な発展はさまざまな問題をもたらしました。独裁を防ぐためにはどうすればいいのか、経済発展による環境汚染や貧富の差の拡大にどう対処できるのか、科学の発達による「生きる意味」の喪失をどう補完できるのか。いわゆる現在にも続く「社会問題」が発生したのも18世紀以降のことといえるでしょう。このように近代社会の初期に今の社会問題の多くの原型が既に登場しているのです。そして、社会がどんどん複合的になっていくにつれて、社会問題もますます複雑になっていき、単純な解決ができなくなっていったのです。

こうした社会の誕生に伴い、「社会」を対象にする学問も生じました。それが「社会学」という学問です。ちなみに、社会科学と社会学は異なるもので、社会科学の中に経済学・政治学・社会学などが含まれます。公共ではこうした諸科学の視点から、社会のあり方や社会問題について考えていこうという意図があります。

どのように勉強すればいいの?

上述したように、私たちが当たり前のように用いる社会という概念が広く使われるようになったのは比較的最近のことです。そうした社会のあり方、そしてその社会に生きる一人として社会とのどのように関わるかを学ぶのが公共という科目の意義でした。

では、公共とは具体的にはどのように勉強すればいいのでしょうか。まず、大前提として公共という教科では知識の暗記よりも考え方やものの見方を養うことが目標とされています。そのためこの教科では、いかに効率的に暗記するかなどではなく、公共で学んだ考え方を現実の問題に応用する癖をつけるのが大事だといえます。

例えば、「コロナ感染拡大に伴う都市のロックダウン」というニュースを見た時に、行政がロックダウンをするのは適切なのか不適切なのかについて公共で学んだ考え方を用いて、自分の意見を考てみるなどしてみるのがいいでしょう。

また、公共という科目は政治・経済・社会・法・倫理などさまざまな学問の知見が含まれる総合的な教科です。そのため、政治学・経済学・社会学・法学・倫理学などの基礎的な考え方を吸収する必要があります。ルークス高等学院では、政治学・経済学・社会学・法学・心理学・倫理学の基本的な知識や考え方を学んでいきます。

とくに、高校では一般的には学ぶことのない社会学の知見を学んでいきます。というのも、公共という科目で必要な知見の多くは社会学から引き出すことができるからです。そして、何よりも社会がどのように成立しており、社会とはどのような存在なのかを理解するためには社会学の知見が欠かせません。しかし、公共ではあまり社会学の知見を扱うことがないようです。そのため、今後の記事では社会学の知見を紹介していきたいと思います。その上で、政治学や政治哲学、経済学や心理学、法学などの隣接分野の知見と結びつけて現代的な問題を考えていきたいと思います。

公共を通じて身につく能力とは?

最後に公共を通じて身につく能力について考えていきたいと思います。公共を通じて身につく能力は、自律的な思考力と他者に対する想像力ということができるでしょう。自律的な思考力とは「自分自身で考える力」です。特に現代社会はさまざまな情報が蔓延っている時代です。その中にはフェイクニュースなども含まれています。そうした情報を適切に判断するには、裏付けされた知識を持つ必要があります。そして、ただ知識をもつだけではなく、知識同士を組み合わせて自分自身の考え方やものの見方を確立する必要があるのです。これが自分自身で考える力になると思います。

他者に対する想像力とは簡単に言うと「自分以外の事柄に対する想像力」です。近代社会は、会ったこともない人や見たことのないものによって支えられている社会です。 例えば、車がどうして走っているのかわからない人は多いでしょうし、なぜ橋が崩落しないかわからない人も多いでしょう。あるいは毎朝飲んでいるコーヒーがどこから来て、どこで生産されているかもわからないでしょう。しかし、社会の仕組みを知ることによって自分たちの身の回りの生活がどのように成立しているか想像できるようになるでしょう。そして、この想像力がなければ、社会のあり方を構想することはできません。

上記のような能力を公共という科目を通じて身につけていくことができるのではないでしょうか。最後に、繰り返しになりますがLoohcs高等学院では公共で学ぶような事項を主に「社会学」という枠組みで扱っていきたいと考えています。


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