日本史や世界史は、好き嫌いが大きく分かれる分野だと思います。歴史好きの中高生にとっては勉強し甲斐がある教科でしょうし、あまり関心のない人にとってはただの「暗記科目」に感じられるでしょう。その一方で、社会人になると「もっと真面目に歴史を学んでいれば」と学び直しをしたい人が増える教科でもあります。今回は、日本史や世界史を含む歴史学がどのような学問で、どのようなことを学んでいくのかについて書いていきたいと思います。

歴史学で何を勉強して欲しいの?

文部科学省は2022年より高等学校の指導要領を新しくすることを決定しています(いわゆる新指導要領)。特に、国語のあり方は大きく変化します。私たちの社会は変化が激しく、不確実で不安定になりつつあります。このような時代はVUCAの時代などと呼ばれています。 VUCAとは、Volatility(変動性)・Uncertainty(不確実性)・Complexity(複雑性)・Ambiguity(曖昧性)の四つの英単語の頭文字をとった造語です。

このような時代において、不確実な未来を予測し、次の時代をつくっていくためには「過去から学ぶこと」が必須になります。文部副大臣も務め、新指導要領の作成の際にも大きく尽力した鈴木寛氏は、

過去の紛争は基本的に利害が食い違う国や、人間の間で起こっているわけです。歴史を学ぶということは、今起こっていること、直面している課題に対して過去を参照しながら考えていくことに本質があります。

https://www.kyoiku-tosho.co.jp/news_list/69/

と述べています。つまり、現代的な課題を解決しようとする時に歴史的な出来事を参照する必要があるというのです。とくに、現代史の知識が必要不可欠なものであるとされます。これまでの歴史教育では、縄文時代から現代まで一気通貫で学習していましたが、多くの学校では現代史の授業は受験直前で疎かになりがちということもありました。特に現代史は、グローバル化の進展の影響もあり、「日本史」「世界史」のように分割できないのですが、教科によって「現代史」が分断されているという問題がありました。また、世界史が必修科目になったにも関わらず、時間的都合から未履修のままという高校がかなりの数あったことも問題にされていました。

そのような現状を踏まえて、日本史と世界史という区分を設けずに現代史を総合的に学ぶ「歴史総合」という科目が新設されました。そして、いままで日本史aや日本史b、世界史aや世界史bというよくわからない科目編成が変わり、「選択科目」として「日本史探究」「世界史探究」という科目が新設されました。このように、歴史科目については新指導要領で大きな変化がなされたのです。

歴史とは物語である

新しい指導要領では、歴史系の科目は従来のような暗記中心の教科から、思考力を養う教科へと変貌します。そのため、「日本史や世界史の年表を見て、年号を覚える」や「日本史や世界史の一問一答の問題集を買って、人名や出来事を逐一暗記する」「教科書や参考書の重要事項に線を引いて覚える」というような勉強法だけではだんだんと通用しなくなっていくと考えられます。

では、歴史の分野では何をどのように勉強すればいいのでしょうか。それを考える上では、そもそも歴史学がどのような営みであるかを考える必要があります。歴史-historyは何よりもまず物語-storyです。古代中国では、滅亡した王朝の次の王朝の時代に、滅亡した王朝の歴史をまとめるというのが一般的でした。このように、歴史というものは常に後世の人があるいは同時代においても過去について「語る」という性質をもっています。だからこそ、歴史とは過去についての物語なのです。

つまり、歴史がうまれるためには現代に生きる人々が過去をまとめるという作業が必要なのですが、「どのように過去をまとめるか」「どのように過去を物語るか」についてはさまざまな立場があります。詳細については別の記事で論じますが、軽く触れるのであれば「現代の人々の主観的な見方は排除できない」という考え方と「なるべく現代人の見方を排し、過去の文脈を史料から丹念に再構成すべき」という考え方があります。

少し難しいかもしれませんが、歴史家の主観性はどれだけ過去の事実から排除できるかという論争でもあります。ただし、いずれにせよ日本史の教科書も世界史の教科書も、人間がつくったものです。そのため、どのような学説に立つかによって記述のブレはあるものです。複数の教科書を見比べて、記述にブレがある点を見つけて、友人らと議論したり、先生に質問をしたりするのもいい勉強法になるかと思います。

このように、史料をもとにして歴史家が再構成した物語-storyが歴史なので、そもそも歴史は暗記科目ではないのです。そして、その物語を理解し、自分自身でも再構成できるようになること、つまり歴史家のような視点をもつことができるようになることが、歴史を学ぶことで最も身につけるべきことだと思います。そのような基本的な歴史を見る眼を養えば、過去の人々がどのようなジレンマを持ち、どのように課題解決に向き合っていったのかも自ずとわかるようになるでしょう。

どのように勉強すればいいの?

では、具体的には歴史という学問をどのように勉強していけばいいのでしょうか。大学以降になると、まずは史料を探すこと、過去の学説を調べること、発見した史料を読むこと、史料と学説を組み合わせて論文を書くことなどが基本的な歴史学の作法になりますが、高校ではそこまでするのはかなり難しいことです。しかし、「基本的な歴史のものの見方を知ること」「史料を読むこと」は高校生でも十分できることです。普通の高校ではあまり歴史の基本的なものの見方は教わらないでしょう。しかし、歴史学あるいはその周辺領域にはさまざまな理論や学説が存在しています。

まずは「ものの見方を知ること」です。例えば、ヤマト政権から律令国家体制への変化については、「人の支配」から「法の支配」への変化だというように捉えることもできます。もちろん、この見方についてはさまざまな異論があるとは思いますが、このように捉えることによって見通しが良くなることも事実です。具体的には、律令国家体制期は律令と呼ばれる現代における法律が整備されていった時期です。そして、法を運用するためには官僚組織が必要になります。そのため、身分秩序を設定するような制度が生み出され、官僚=貴族たちが住む行政都市である「京」が建設されていきました。

このように時代の変化を捉えることによって、歴史は単なる暗記教科ではなくなります。むしろ、過去の人々の行為をどのように捉えるかという点から歴史に迫ることができるようになるのです。学説や理論を学ぶ理由は、歴史家は過去を再構成するために学説や理論を参考にしているからです。基本的な学説などを知りたい場合は、大学の歴史学の教科書などを参考にするといいでしょう。

次に、「史料を読むこと」です。歴史はなによりも史料なしにはあり得ません。教科書や参考書に書いてあることも、過去の史料をもとにしています。そのため、史料を読むことなしにはあり得ません。史料は過去の文章なので、読みづらいことも多いでしょうが、史料を読むことなしに歴史の勉強はできません。そして、史料を読むことは思いもよらぬ発見をしたりなどおもしろいものです。学校で配布されるような史料集を活用して、生の情報に触れてみてください。

また、史料にはさまざまなものが含まれています。例えば、音声・動画も史料になりますし、図書館にある郷土史料もありますし、おじいさんやおばあさんの語りも史料になります。普段なにげなく使っているYoutubeも歴史的な史料になりえるのです。史料集にはまだ含まれてはいないものの、日常のあらゆるものが史料になると考えると、関心の範囲はどんどん広がっていくのではないでしょうか。例えば、2010年代を「SNSの時代」などと名づけることだってできますよね。そしたら、YoutubeやTwitterやInstagramなどで投稿されている内容も歴史的に重要な史料になるのです。

少し脱線してしまいましたが、歴史を勉強するためには史料を読むことが欠かせません。そして、史料と史料からどのようなことが言えるかと考え続けるのが大切です。そのような訓練をすることによって、実際に人々がどのように考え、どのように行動したか想像できるようになるのです。新指導要領が重視する歴史を通じた課題解決力は、史料を読み込みことによって身につくのではないでしょう。

歴史学を通じて身につく能力とは?

歴史学を学ぶことを通じて身につく能力は「編集能力」「課題発見力」なのではないかと思います。編集能力とは、過去の歴史的事実を組み合わせて歴史像を組み立てることと言えるでしょう。物事を結び合わせる力は、どのような仕事をするにしても欠かせない能力だと思います。歴史の学習を通じて、常にどのような視点から歴史的な事実を見ると見通しがよくなるのか、史料からどのようなことを言えるのかを考えてみると暗記教科以上の面白さに気づけるのではないでしょうか。

歴史的とされるような出来事には、注目されているだけに値する理由があります。例えば、なぜ数多くの法律の中で「墾田永年私財法」が注目されているのか。その理由を考えることも重要です。律令体制期に確立された土地制度が動揺した結果、土地制度を改革する必要がありました。そして、この法律制定後、豊臣秀吉の太閤検地まで続く荘園制度が確立していくことになります。このような視点から歴史的出来事を見ることで、課題を発見し、どのような課題を解決したのかという知恵を知ることができます。

このような「編集能力」「課題発見力」が歴史学を通じて身につく能力ということができます。


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