高校生の中でも苦手意識が強い分野の一つが物理といえるでしょう。選択科目の中でも、物理は敬遠されがちで、暗記科目だと思われている化学や生物などの選択率が高いようです。物理は暗記量は少ないけれども、数学のように公式を覚えたり、計算問題が多いため、苦手意識のある高校生が多いのでしょう。そもそも数学の知識がないとなにを言っているのかチンプンカンプンになってしまうので、数学についていけなければ物理にもついていけないのです。物理の問題集を見ただけでは、数学と区別がつかないと感じる人も多いのではないでしょうか。今回は、高校物理あるいは物理基礎で何を学ぶのか、物理とはどのような科目なのかについて検討していきたいと思います。

物理で何を勉強して欲しいの?

文部科学省は2022年より高等学校の指導要領を新しくすることを決定しています(いわゆる新指導要領)。特に、国語のあり方は大きく変化します。私たちの社会は変化が激しく、不確実で不安定になりつつあります。このような時代はVUCAの時代などと呼ばれています。 VUCAとは、Volatility(変動性)・Uncertainty(不確実性)・Complexity(複雑性)・Ambiguity(曖昧性)の四つの英単語の頭文字をとった造語です。

この時代において理系科目の基礎的な知識や考え方は国際的にも需要が高まってきているものの、日本の中高生の理系教科への関心や好奇心は世界的に見て低い水準となっています。文部科学省はこの事態に危機感を持ち、理系科目の醍醐味でもある「観察・実験」などの自然科学の研究方法への理解も深められるようなカリキュラム設計へと指導要領を改訂しました。とはいえ、今回の改訂は国語や数学に比べると、前回の指導要領からの変更点は少ないものとなっています。「物理」と「物理基礎」という科目の区分もそのまま残っています。実験や観察という自然科学の基本的な手法も積極的にテストに出題されるようになっています。

つまり、AI技術をはじめとする科学技術の発展を前にしてもっと理系科目に興味をもってもらいたい、特に理系科目の基本である観察と実験の精神について理解してもらいたいというのが文部科学省の指針なのです。

物理学とは?

文部科学省の指導要領はよく読めば、重要なことを書いているのですが、長いですし、大事なことを詰め込みすぎてかえってわかりづらくなる傾向にあります。

では、高校物理のエッセンスとはどのようなものなのでしょうか。一言でいうと「ある条件の下での物体の振る舞いのメカニズム」を理解することです。例えば、物理学の始祖の1人にも数えられるニュートンなどは典型的でしょう。彼は、木から落ちるリンゴをみて万有引力の法則を思いついたと寓話的に語られていますが、このエピソードは物理学のエッセンスを理解する上では大変効果的です。このエピソードで示されていることは、「りんごが落ちる」という些細な出来事から、物体全体の落ちるという振る舞いのメカニズムを説明する理論をつくりあげたということです。

つまり、ニュートンは具体的な事柄の観察を通じて、普遍的な法則を発見したのです。りんごもぶどうもくりも木から落ちます。それぞれ物体の形は異なりますが、落ちるというのは共通する出来事です。物体の形を考慮に入れなければあらゆる物体は落下します。では、どのようなメカニズムで物体は落下するのか。具体的な物体については一旦考えないで、あらゆる物体に共通する振る舞い、そしてその振る舞いを生じさせているメカニズムに迫るのが物理学の醍醐味なのです。さらに、ニュートンの逸話が示しているのが「リンゴが落ちる」という事実-factを観察し、それを踏まえて万有引力の法則を明らかにしたということです。

ニュートンよりも前の時代の学問は、観察よりも論理の方が真理を保証していました。つまり、学問的な正しさは論理的に正しいということだったのです。そのため、学者たちは真理を明らかにしようとする際は必ず論理的な一貫性を求めたのです。その論理一貫性を保証するのが聖書だったため、学者としては聖書の記述と矛盾する説は主張しづらくもありました。それに対して、ニュートンらの新たな時代の科学者たちは、聖書に基づく論理よりも観察に基づく経験を重視したのです。時に科学者たちの説は、教会の主張と真っ向から反発することもあり、弾圧されることもありました。しかし、科学は聖書よりも理にかなった発見を次々にしていき、人々の信頼を獲得していったのです。

このことからもわかるように、物理学の発展は科学の発展そのものでもあったのです。哲学(形而上学-metaphysics)から自然科学(物理学-physics)への転換。それが17世紀以降の学問の基礎となりました。社会科学も、物理学の実験と観察を重んじる科学の精神を引き継ぎ、現実を観察すること(統計データを分析する/フィールドワークをしてインタビューをするなど)を通じて様々な理論を生み出していきます。自然科学も社会科学も物理学がもたらした科学の精神をもとに発展していきました。だからこそ、物理学はあらゆる科学の基礎的な学問と言えるのです。

結局、何を勉強すればいいの?

物理学とはどのような学問なのかについてはある程度イメージできたかと思います。高校の物理で扱う分野は「力学」「熱力学」「電磁気」「波動」「原子」の5つの分野で構成されています。専門的には、一般に古典力学と呼ばれるジャンルに属する分野を学ぶのが高校での物理あるいは物理基礎といえます。古典力学と対比される、現代物理学というのは「相対性理論」や「量子力学」と呼ばれるジャンルで構成されており、古典物理で想定されている物理的世界観とは異なる世界観を下敷きにしています。物理学に興味をもった高校生は大学以降、古典力学のみならず「相対性理論」や「量子力学」の世界に足を踏み入れることになります。では、高校物理では具体的にどのようなことを学んでいくのでしょうか。それぞれ軽く説明していきたいと思います。

力学

力学とは、「物体にどのように力がかかっているか」「物体はどのように運動をするのか」について考える分野です。万有引力や重力をはじめとして、物理学の基本的な知識かつツールを学んでいきます。 物体が何かしらの運動をする時、その物体にはさまざまな力が働いています。その力を分解し、組み合わせることで物体の運動のエッセンスに近づくことができるのです。

熱力学

熱力学とは、「熱がどのように生じているのか」について考える分野です。火は当然のように熱いですが、その熱は一体どこからやってきているのでしょうか。このような疑問に答えるのが熱力学です。熱力学は、熱の原因は「運動」にあると考えました。かつては熱は熱素という物質によって発生していると考えられていました。しかし、観察と実験の結果、熱は物質が運動することによって生じているということがわかりました。火が熱いのは、熱源(蝋など)と酸素を構成する原子が猛スピードで運動するからなのです。

電磁気学

電磁気学とは、「電気や磁気がどのように生じるのか」「電気や磁気はどのような性質をもつのか」について考える分野です。冬の時期に、セーターなどを着るとパチッと静電気が発生します。この電気は実は物質がもっている電荷が物質Aから物質Bに移動することによって発生しているのです。このような電気の性質や電気の性質によく似ている磁気の性質が明らかになったことで、テレビやインターネットという私たちの生活に欠かせない電気機器が発明されていきました。

流体力学(波動)

流体力学(波動)とは、「ある物質からある物質へ力がどのように伝わっていくのか」について考える分野です。わたしたちがコミュニケーションをする際に欠かせない声も、実は空気中を波が伝わることによって生じている物理的な現象なのです。また、この分野では「光の性質」についても学んでいきます。光は、「粒であり、波である」という二つの性質をあわせもった特殊な存在ですが、そのような知識は光ファイバー技術やDVDやBDなどの技術に応用されています。

原子物理学

原子物理学とは、「目には見えないミクロな世界での物質の運動」について考える分野です。あらゆる物質は、原子をもつとされています。さらにその原子は中性子と電子によって構成されています。そして、複数の原子が結びついたものを分子といいます。原子や分子は非常に微細な存在のため目で捉えることはできません。しかし、原子や分子の存在が物質の性質を決定したり、物質の運動の基盤となるのです。高校の物理や物理基礎の分野では、原子物理学についてはあまり扱いませんが、現代物理学においては最も重要な分野の一つとなっています。

物理学を通じて身に付く能力は?

物理学は、この世界がどのように存在しているかについての基本的な見方をもたらしてくれる分野であり、かつまた実験と観察を通じて世界のあり方に迫っていくという物理学の方法はあらゆる科学の基礎となっています。高校の物理や物理基礎の科目はどうしても、計算問題をたくさん解く理系の分野という位置付けがされがちですが、物理学がもたらした知識は実際には私たちの生活に欠かせないものとなっています。世界がどのように成立しているのか、私たちの暮らしはどのように成立しているか理解するにあたって物理学はすべての人に欠かせない基礎教養ということができるでしょう。

物理学を通じて身に付く能力は、モデル化する力といえます。モデル化する力とは、観察可能な事象から得たデータなどをもとにして、それらを組み合わせて理想的なモデルを生み出す力です。観察できる事象はたいていの場合、バラバラです。そうしたバラバラな事象を組み合わせて、論理的に一貫した世界像をつくるのがモデル化するというこことです。物理学の知見はほとんどが、人間が理解しやすいように「物体の動き」「物質の性質」「エネルギーの発生」「力の伝播」などをモデル化したものです。そのモデル化のために用いられるツールが図にすることや数式にするという数学的な道具なのです。ますます複雑化する現代社会において、複雑な世界を単純なモデルで表現するという物理学を通じて身につく力は大きな威力を発揮するでしょう。


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